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東野圭吾「加賀恭一郎」シリーズ④~『麒麟の翼』『祈りの幕が下りる時』

 

映画「麒麟の翼 ?劇場版・新参者?」【TBSオンデマンド】祈りの幕が下りる時 Blu-ray 豪華版

 

加賀恭一郎シリーズは、作品の発表期間がとても長い。東野圭吾がデビュー直後に発表した『卒業』から始まり、10作目『祈りの幕が下りる時』は2013年。それゆえか、発表された時期に応じて作品の形態が異なっている。同じく人気シリーズの『ガリレオ』が

 

ワトソン役の草薙俊平(ドラマでは内海薫)が不可解な事件を持ち込んでくる

湯川学が科学の知識を活かして推理を行う

事件解決

 

という、『暴れん坊将軍』的な定番パターンで展開するのとは対照的である。

 

タイトルごとのフォーマットを見ていくと、

 

『卒業』=青春群像

『眠りの森』=ラブストーリー

『悪意』=登場人物の手記というかたちで全編進む

どちらかが彼女を殺した』=どちらが犯人なのか最後まで明かされない

私が彼を殺した』=容疑者3人のうち誰が犯人なのか最後まで明かされない

『嘘をもうひとつだけ』=短編集

『赤い指』=徹底的な鬱展開

『新参者』=「証言をするモブキャラ」を中心にした短編連作

 

共通するのは「加賀恭一郎が登場する」点だけで、見事にバラバラ。バラエティーに富んでいるなどという形容が陳腐に思えてくるほどだ。

 

そんな加賀恭一郎シリーズは、最後にどのような展開を見せたのだろうか。

 

 

第9の事件『麒麟の翼』(☆☆★)

麒麟の翼 (講談社文庫)

映画にもなった第9の事件。 一言であらわせば「ファンサービス」。

『赤い指』で登場した加賀のいとこ:松宮が再登場し、加賀とコンビを組み、日本橋で起きた殺人事件の真相究明に挑む。

これまではバラバラで独立性の高かった加賀シリーズが、ここにきて連続性を帯びてくる。『赤い指』『新参者』と明確にリンクしたストーリーは、これまで付き合ってきたファンへのサービス精神を感じさせる(長く読み続けてきたシリーズに連続性を見出すと嬉しくなるのは、人の性よね)。

読み味としても、意外な展開、泣かせる人間ドラマ、爽快感がありながらも含みを持たせた結末など、東野ミステリーの美味しさが盛りだくさん。

色々な意味で、シリーズ集大成の作品といえる。

麒麟の翼 (講談社文庫)

麒麟の翼 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2014-02-14

 

 

 

 

第10の事件『祈りの幕が下りる時』(☆☆☆)

祈りの幕が下りる時 (講談社文庫)

明治座に幼馴染みの演出家を訪ねた女性が遺体で発見された。捜査を担当する松宮は近くで発見された焼死体との関連を疑い、その遺品に日本橋を囲む12の橋の名が書き込まれていることに加賀恭一郎は激しく動揺する。それは孤独死した彼の母に繋がっていた。

みたび松宮と組んで殺人事件の捜査にあたった加賀が遭遇した、悲しき数奇な運命を描く第10の事件。第48回吉川英治文学賞を獲得している。

 『麒麟の翼』は、「東野圭吾クリシェ」を総結集させたファンサービス的な仕上がりだった。ではその次に何を繰り出してきたのかというと、とても重厚な社会派ミステリーであった。

 

川本三郎をはじめ様々な人が指摘しているが、本作は松本清張の『砂の器』をつよく想起させる物語に仕上がっている。東野圭吾は『砂の器』に対してなにか強い思い入れがあるのか、ガリレオシリーズ『真夏の方程式』でも、同作のオマージュとおぼしき要素が随所に散りばめられていた。

 

祈りの幕が下りる時 (講談社文庫)

祈りの幕が下りる時 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2016-09-15