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東野圭吾「加賀恭一郎シリーズ」③~『赤い指』『新参者』

東野圭吾「加賀恭一郎シリーズ」①~『卒業』『眠りの森』『悪意』 - 知ってることだけ話しますよ

東野圭吾「加賀恭一郎シリーズ」②~『どちらかが彼女を殺した』『私が彼を殺した』『嘘をもうひとつだけ』 - 知ってることだけ話しますよ

↑これまでの紹介記事はこちら

 

 

多くの東野圭吾作品とおなじく、加賀恭一郎シリーズも映像化の機会に何度か恵まれている。

 

まず『眠りの森』が1992年にテレ朝「土曜ワイド劇場」にて、『眠りの森の美女殺人事件』のタイトルで放映。このとき、加賀恭一郎には山下真司が扮した。

その後2001年に、『悪意』がNHK東野圭吾ミステリー:悪意』のタイトルで連ドラ化。主人公は加賀恭一郎から、定年を間近に控えた初老刑事:西原甲子男(演:間寛平)に変更されている。

そして『嘘をもうひとつだけ』の中から、「冷たい灼熱」「狂った計算」の2本が、テレビ東京系の2時間ドラマシリーズ『多摩南署たたき上げ刑事・近松丙吉』の脚本原案に使用された(「冷たい灼熱」は2001年、「狂った計算」は翌2002年に放映)。

 

決定版となったのが、2010年にTBS「日曜劇場」枠で放映された『新参者』だろう。阿部寛が加賀恭一郎に扮したこの連ドラは好評を博し、それに連なるかたちで、2011年にTVSP『赤い指』が放映。その後2012年に麒麟の翼』が映画化され、2013年にはTVSP第2弾『眠りの森』が放映されている(つまり『眠りの森』は二度映像化されているわけだ)。さらに、完結編となる劇場版『祈りの幕が下りる時』の公開もアナウンスされている。

 


映画『祈りの幕が下りる時』予告

 

『赤い指』『麒麟の翼』『眠りの森』は、映像化の際それぞれ、

 

・『赤い指~「新参者」加賀恭一郎再び!~』

・『麒麟の翼~劇場版・新参者~』

・『眠りの森~新参者・加賀恭一郎~』

 

と副題がつけられた。

 

そのためか、ドラマから入った人は、小説の方も「新参者シリーズ」と呼ぶ傾向があるようだ。

 

今回取り上げる2作品『赤い指』『新参者』と、次回取り上げる2作品麒麟の翼』『祈りの幕が下りる時』は、そんな「新参者シリーズ」の原作となる。

 第7の事件『赤い指』(☆☆☆)

赤い指 (講談社文庫)

<概要>

「家族」の物語。
犯罪を越えた本当の闇。
この家に隠されている真実は彼らの手で解かれなければならない。
ひとつの事件から見える家族の肖像。
二日間の悪夢と孤独な愛情の物語。
加賀恭一郎シリーズ

 シリーズの順番的には『新参者』よりもこちらが先(TVSP版は『新参者』のプリクエルという形式をとっている。『眠りの森』も同様)。崩壊寸前のとある家族に訪れた、おぞましい悲劇を描いている。

 

東野圭吾徹底的にやる作家だと思う。作品のコンセプトを定めたら、中途半端をせずそのコンセプトをひたすらに掘り下げる。その結果、上梓された作品は、読む者に強烈な情動を促すものになる。

 

「愛の物語」を書いたなら、滂沱の涙が止まらない名作秘密が出来上がる。

 

「単純な善悪で割り切れぬ苦味」を画策すれば、三日三晩は苦さを引きずること必至なレイクサイドになる。

 

「笑いを取ろう」と思い立ったら、毒笑小説や自伝あの頃ぼくらはアホでしたなど腹がよじれるものをポンと出してくる。

 

ミステリの醍醐味「意表を突く」に特化したならば、むかし僕が死んだ家仮面山荘殺人事件、そして当ブログでも取り上げた加賀恭一郎シリーズ第3の事件悪意といった傑作群ができあがる。

 

東野圭吾は作風の幅広さで知られるが、どの作品でも共通して言えるのは、徹底的に掘り下げて描ききっていることだ。ゆえにどんなベクトルを向いていても面白いのである。

 

話を『赤い指』に戻そう。

 

本作のコンセプトは、ズバリ「鬱展開」だ。この物語が与える生理的不快感と身につまされる陰鬱さは、筆舌に尽くしがたいものがある。読む人によっては、耐えきれず途中で本を投げてしまうかもしれない。

 

しかし、ただ気持ち悪いだけでは終わらないのが東野圭吾。終盤、事件が以外な方向へと転じるにつれ、暗いばかりで息が詰まるようだったストーリーが、急転直下の勢いで感動のラストへと突き進んでいく。

 

読後に残る清らかな余韻は、中盤までのどす黒い鬱展開があるからこそ引き立つ。徹底的に掘り下げる作家・東野圭吾の用意した見事な鬱ストーリーに、思うぞんぶん翻弄されてほしい。

 

赤い指 (講談社文庫)

赤い指 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2009-08-12

 

 

 

 第8の事件『新参者』(☆★★)

新参者 (講談社文庫)

<概要>

刑事・加賀恭一郎、日本橋へ。

日本橋の片隅で一人の女性が絞殺された。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎の前に立ちはだかるのは、人情という名の謎。手掛かりをくれるのは江戸情緒残る街に暮らす普通の人びと。「事件で傷ついた人がいるなら、救い出すのも私の仕事です」。大切な人を守るために生まれた謎が、犯人へと繋がっていく。

講談社文庫BOOK倶楽部より

連ドラ化され、シリーズの知名度を高めた8作目である。だが意外なことに、本作に限って言えば、加賀恭一郎は主人公ではない。どういうことか。

 

本作は全9章からなる構成で、長編と連作短編のハイブリッドのような形式を取っている。具体的には、1章ごとに短く完結するストーリーが語られ、それと同時進行的に、全体を貫くひとつの謎が徐々に明らかにされていく。

 

各章ごとの流れとしては、

 

何か問題を抱える主人公がいる

主人公のもとに加賀恭一郎が訪れ、要領を得ない質問をする

訝しながら主人公がそれに答える

加賀の推理によって、主人公の抱える問題に解決の糸口が見える

 

これが繰り返され、ラストの9章で全体を貫く謎(日本橋で女性が絞殺された事件)が明かされる。加賀は狂言回しのような役回りで、各章ごとに登場する問題を抱えた人物が主人公なのである。

 

2時間ドラマなどではよく、刑事が町の人に聞き込みをするシーンが出てくるが、『新参者』では、そういった聞き込みシーンに出てくる、証言するモブキャラ達に焦点を合わせたつくりなのだ。

 

私が本作を読んだのはドラマ放映からだいぶ経ってからなのだが、確かに連ドラ化するのに格好の素材であると感じた。

各章ごとに独立性が高いストーリーでありながら、縦糸としてのストーリーもある。毎回登場して問題解決の手助けをする加賀はヒーローめいてカッコいいから、キャラクターものとしても楽しめる。まさにうってつけ。

 

『新参者』は、『悪意』のようなトリックのサプライズより、どちらかと言えば人情ドラマを重視している。ゆえにミステリーにどんでん返しの衝撃を求める人にはやや食い足りないかもしれない。

しかしトリック以上に、細かいストーリーを積み重ねてリンクさせる構成の妙にこそ本作の面白みがあると私は思う(執筆の過程を想像したら気が遠くなりそうだ)。

 

何より加賀恭一郎シリーズは、『赤い指』『新参者』から、作品間のリンクが生まれ始める。本作は避けて通れないのだ。

 

次回は『麒麟の翼』『祈りの幕が下りる時』を取り上げ、紹介記事の締めくくりとしよう。

新参者 (講談社文庫)

新参者 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2013-08-09