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東野圭吾「加賀恭一郎シリーズ」①~『卒業』『眠りの森』『悪意』

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有名だけど手をつけてないコンテンツというのが結構あって、私にとってはミステリー小説がそうだった。小さい頃から本を読むのは好きだったが、ミステリーに対しては苦手意識があったのだ。

 

「ドラマとちがって活字じゃ、謎解きとかトリックとか、頭に入れておかなきゃいけない事柄が多くて、読むのしんどそう」

というのが理由だ。もしかして同じ理由でミステリーを敬遠している人はけっこういるんじゃないか。

 

しかし去年、

 

「この歳になって、東野圭吾を一冊も読んでないって、かなり恥ずかしいのでは!?」

 と思い立ち、あわてていろいろと東野圭吾の著作を買い込んだ。

orehero.hateblo.jp

参考にしたのはこのエントリ↑。こうやって先達の知恵を無料で提供してもらえるのだから、実にありがたい話である。

 

今回は『祈りの幕が下りる時』映画化を勝手に記念し、いくつかのエントリに分けて、「加賀恭一郎シリーズ」全10作品のレビューを行いたいと思う。

このエントリが、映画を見る前の参考になれば幸いだ。

 

では行ってみよう。

 

 

 

 

第1の事件『卒業』 (☆★★)

卒業 (講談社文庫)

卒業 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 1989-05-08

<概要>

7人の大学4年生が秋を迎え、就職、恋愛に忙しい季節。ある日、祥子が自室で死んだ。部屋は密室、自殺か、他殺か?
心やさしき大学生名探偵・加賀恭一郎は、祥子が残した日記を手掛りに死の謎を追求する。しかし、第2の事件はさらに異常なものだった。茶道の作法の中に秘められた殺人ゲームの真相は!?

探偵ガリレオ』と並ぶ東野圭吾の人気ミステリー小説『加賀恭一郎シリーズ』の1作目。東野圭吾が『放課後』でデビューしてからさほど間をおかずに刊行された、東野ミステリー全体の中でも最初期の作品に位置づけられる。

デビュー直後ということもあってか、謎解きの語り口はまだ硬い印象。なにせ本作で用いられる2つのトリックはあまりにも複雑すぎるので、図解が挿入されているのだ。

一方、事件をめぐる人物描写に関しては、この時点で非凡な冴えが感じられる。探偵役・加賀恭一郎とヒロイン兼助手役・相原沙都子のふたりが、友情と真実のはざまで揺れ動く葛藤を描いたことで、ドラマ的にも厚みのある作品に仕上がっていた。

ミステリーとしてよりも、むしろほろ苦い青春小説として楽しめる一品。

 

 

第2の事件『眠りの森』(☆☆★)

眠りの森 (講談社文庫)

眠りの森 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 1992-04-03

<概要> 

青年刑事が追う踊り子の美しくも哀しい秘事華麗な舞を舞うバレエ団のプリマが、正当防衛とはいえ、レッスン場に忍び込んだ男を殺害してしまった。
捜査に当った青年刑事は次第にあるバレリーナに魅かれていく。
加賀恭一郎シリーズ

『卒業』では学生だった加賀恭一郎が、刑事となって登場するシリーズ第2作目。

裏表紙のあらすじからして既に誰が犯人なのか仄めかしているし(ミステリーで主人公が惹かれていく人間が、怪しくないワケないだろ!)、加賀が推理のヒントを見つけるイベントも、正直ちょっと出来過ぎな印象はある。

しかし、それを補って余りあるのがラストシーンの美しさだ。

なんと切なく、悲しみに満ちた結末であることよ。前作『卒業』が優れた青春小説だったように、本作は最高の恋愛小説といえるだろう。ミステリーの結末で泣いたのはこれが初めてである。

 

第3の事件『悪意』(☆☆☆)

悪意 (講談社文庫)

悪意 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2001-01-17

<概要>

人はなぜ人を殺すのか。
東野文学の最高峰。
人気作家が仕事場で殺された。第一発見者は、その妻と昔からの友人だった。
逮捕された犯人が決して語らない「動機」とはなんなのか。
超一級のホワイダニット
加賀恭一郎シリーズ

シリーズ3作目は、前2作とは趣きを変えた変則ミステリー。

本作は東野圭吾ファンの間でも非常に評価が高い作品であるようで、レビューサイト等でも賞賛の声が多い。

それも道理で、ミステリーの醍醐味である「疑いなく信じていた大前提が、根底からひっくり返される驚き」が幾重にも施されているのだ。前2作(『卒業』『眠りの森』)は、深みのある人間ドラマで作品価値を高めていたが、本作は徹底して

「なぜ犯人が殺人に及んだのか」

を追求する。370頁ものボリュームを、この一点だけで引っ張る(そして楽しませる)完成度はただごとではない。

東野圭吾という作家が、いかに芸達者であるかを思い知らされる傑作である。私はこれでミステリーに対する苦手意識が完全に消え、このジャンルの虜になってしまった。

 

 

次回は『どちらかが彼女を殺した』『私が彼を殺した』『嘘をもうひとつだけ』を取り上げる予定。